開催日 | 2016年2月26日(金) |
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対象 | イーズ未来共創フォーラム 企業・団体パートナーさま、オブザーバーとしてご参加の企業・団体の皆さま |
ゲスト | 小西 雅子 さま WWFジャパン |
ファシリテーター | 枝廣 淳子 |
参加人数 | 21社 32名、学生2名 |
昨年末、パリで国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、2020年から実施を目指す新たな枠組み、「パリ協定」が採択されました。このパリ協定は、今世紀後半までに世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロにするという目標に向けてすべての国と地域が参加することになった、歴史的な協定といえます。
今回、パリから会議の進行をレポートしてくださっていた、WWFジャパンの小西雅子さまをお迎えし、国際交渉の現場のようすやパリ協定が企業にとってどのような意味を持つかなどについて、具体的にお話いただきました。
パリ協定についての小西さんのお話を受けて、日本の企業としてどのように考えていくべきか、何をすべきかを中心に議論がすすみ、活発な意見交換と、個人の作戦を練りました。
問題意識や課題の共有
<講演>
「COP21パリ協定の意味と世界の企業の動き~日本企業はどう動くべきか? ~COP21の現場と企業動向」
WWFジャパン、 自然保護室 室次長 兼 気候変動・エネルギープロジェクトリーダー
小西 雅子 氏
<前提>
IPCCの第5次レポートで示されたRCP8.5 シナリオの排出経路に沿っている現在の世界からの排出量、そこから読み取れることは、このままだと21世紀末の世界の平均気温は2.6度~4.8度上昇すると予測されていることです。世界で4度上昇した場合、日本は緯度の関係から5度上昇すると予測され、その影響は極端な豪雨などの異常気象、海洋の酸性化など、生態系に深刻なダメージを与え、人類も共存することは難しいとされるレベルです。世界の国々が気候変動に対して取り組む必要があり、どう実現していくのかを交渉をする場がCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)であり、昨年12月に開催されたのが、第21回締約国会議(COP21)です。
画期的!歴史的!と言われるパリ協定。何が、どこが、画期的で歴史的なのでしょうか。パリ協定は、先進国と途上国との間で歴史的な排出責任を巡って長い年月対立してきた経緯を乗り越えて、1990年当時(京都議定書体制)とは違う、すべての国を対象とした新体制を敷くことが課題でした。そのためには、各国間に新しい公平感(納得感)をいかに気づくかが重要なポイントでした。今回、パリ協定の内容だけでなく、そのプロセスも含めてお伝えし、企業・組織、そして個人としてどうワガコト化するのか、考え、実践するヒントにしていただければ思います。
【パリ協定】
一目でわかるパリ協定!(科学と整合!)
1.気温上昇を2度(1.5度)に抑えるために、今世紀後半に人間活動による排出ゼロをめざす目標を持つ初めての協定
2.今の削減目標では2度は達成できないが、今後達成できるように、5年ごとという短いサイクルで、目標を改善していく仕組み
ポイント:現状パリ協定に世界が掲げている世界各国の国別目標がすべて達成されたとしても、気温上昇は2度を超えてしまう。そこで、パリ協定では、目標改善サイクルのある永続的な仕組みに合意した。
世界の平均気温上昇を2度未満に抑えることを目的に、(1.5度に抑えることが、リスク削減に大きく貢献することにも言及)し、世界全体で今世紀後半には人間活動による温室効果ガス排出量を実質ゼロにしていく方向で緩和の長期目標を設定した。
3.世界が本気で温暖化対策を進める意思を持つことを表すために、法的拘束力を持つ協定とした
ポイント:法的拘束力があるということは守らせる力が強いということ。たとえばパリ協定の内容に違反するならば、国際法違反になる。
4.ただし、厳しすぎて協定から抜ける国を作らないために、目標達成は義務としなかった
ポイント:京都議定書の時のように目標達成が義務化されると、協定参加を躊躇する国が多くなって、参加国が少なくなるという矛盾から、すべての国が参加できるような仕組みにした。
目標達成を義務にしなかったのは、大きくは米国を念頭に置いた。数値目標をいれると、国内の議会を通さなければならなくなり、環境政策に後ろ向きな共和党の多い議会が反対する恐れがある。そのため大統領権限だけでも通過できるような形式をとるため、目標達成は義務としなかった。しかし米国だけではなく、新興途上国も日本も含めて、目標達成義務化を望まなかったことも大きい。
5.目標達成を促すため、同じ制度の下で報告させ、多国間で検証して国際的に達成状況をさらす仕組み
ポイント:<透明性>
目標達成は義務にしないながらも、達成を促すために、先進国・途上国の区別なく、世界共通ルールで目標を公表させ、実際の進捗をみるために国際的に検証を受ける(査察団を派遣・チェックが入る)仕組みとなっている。大国(排出量を多く出す国、約20カ国)にとっては、目標を達成しているかどうかが国際的に見える形(透明性の確保と呼ばれる)になれば、もし遵守できていなければ国の信頼・信用問題に関わる。そのためこの透明性を確保するやり方は功を奏しうる。
これは、先進国・途上国の区別なく、
- 同じ共通の制度の下で
- 能力の違いも考慮しながら報告し
- 国際的に検証を受ける(=国際的にさらされる)
というしくみ。
先進国側は新興国の削減行動を確保するためにこの透明性を強く求めた。これに新興途上国の中国・インドは猛反発したが、「高い野心同盟(先進国(欧州連合)+途上国(アフリカ諸国+カリブの島嶼国連合))」の努力と資金面に関する決定事項を盛り込んだことで、要求を受け入れた。
6.先進国・途上国問わずすべての国が削減に取り組むが、そのためには途上国への資金と技術支援を一部義務とした
ポイント:<資金>
先進国は、途上国の緩和と適応に資金支援をすることが義務となり、他の国もそのような支援を自主的に行うことを奨励。さらに先進国は資金支援状況について2年ごとに報告義務とし、他の国もそのような支援報告を自主的に行うことを奨励した。資金支援は先進国だけではなく途上国同士でも行いうることが明記された。
7.温暖化によって深刻な被害が発生することを認知した
ポイント:<適応・損失と被害>
パリ協定では、「適応」だけでなく、「被害と損失」ということも認めて、国際的な対応の仕組みを強化していくことも決定した。パリ協定は、温暖化が、すでに適応しても防ぐことができないような被害をもたらしていることを公式に認知したことになる。
【パリ協定に至るまでのポイント】
これまでは、先進国と途上国の2分論が続いてきたが、今回は、途上国側が割れた。
【パリ協定の成功3要因】
【エネルギーに対する価値観のシフト-ビジネスチャンス】
パリ協定の総合評価としては、科学的に決めた国際協定であること、温暖化被害の深刻化を認知したこと、理想を掲げながらも現実を見据えて、現状では足りない各国の目標を、5年ごとに改善していく仕組みを取り入れたこと。それによっていずれ長期目標を達成できそうな道を開いたこと。永続的な温暖化対策の国際協定としての枠組みを作ったことが挙げられる。なんといっても歴史的な合意を得たことが評価できる。
パリ協定をわたしたちの宿題と受けとめ、企業・組織、そして個人、それぞれの立場でどうパリ協定を考えて実践していくのか、考える機会にできればと思う。
<小西氏と枝廣の質疑応答>
<グループディスカッション>
小西さまのお話を受けて、何を得たか。会社や地域に持ち帰れるものは何か。さらに聞きたいこと。個人ワークとグループでの共有。感想や意見、問いのなかから小西さまピックアップいただき、回答いただいた。
Q.海外企業の活動の具体例は? 2020年目標設定まで、企業はどうするのか。先んじているのか?
Q.欧州はなぜ強いコミットができる?
Q.日本はなぜ消極的なのか?
Q.日本の目標達成の可否は?
Q.日本の炭素税は?
Q.排出量取引制度は?
Q.今の企業の規模のまま再生可能エネルギーに切り替えたとして、生産は間に合うのか
枝廣からコメントとまとめをするなかで、トヨタ自動車株式会社さまからは同社の取り組み「チャレンジ」をご紹介いただきました。
【枝廣からの共有】
・100%再生可能エネルギーの使用をコミットしている、「RE100」。グローバル企業が名を連ねているが、日本からの登録企業はない。
<トヨタ自動車株式会社さまの場合>
「トヨタ環境チャレンジ2050」
2015年に発表した「トヨタ環境チャレンジ2050」は"目標"ではなく、"チャレンジ"。
新車のCO2を2050年に2010年比90%削減、ライフサイクル全体でCO2ゼロに近づけること、生産工場でCO2ゼロ、使用する水の環境への影響を最小限にすること、循環型社会の構築、自然と人の共生、の、6つのチャレンジを打ち出している。
約束した目標と、どこまでできるかわからないけれど、そこに向かってチャレンジしていきます、という目標であり、そういう目標設定をしておくと、行動に移しやすくなる(枝廣)。
きょうの話を踏まえて、それぞれ自社や地域や家に帰って何をやるか。何を考える必要があるか。具体的な行動にどう落とし込むか、という自分なりの作戦を各自個人で考えました。その後、グループで共有し、話し合いました。
株式会社ケーズホールディングスさま
(書籍「地球環境問題を仏教に問う―温暖化地獄を仏教・密教は救えるか」のご紹介)
NPO伊那里イーラさまより、信州伊那里自給楽園のご紹介。
今回開催のフォーラムについて、彩生舎 西村さまのブログでもご紹介いただきました!(リンクからご覧ください)
次回フォーラムは、5月13日(金)!を予定(内容未定)しています。内容が決まりしだい、こちらのサイトでご案内します。
懇親会のようす
(小西さんにもご出席いただきました!)
参加された方の声から
☆本日のフォーラムに参加するにあたり、期待していたことは何でしょうか☆
新しい視点を得る。
農家として生きている身として、企業の方々の思いを聞きたかった。
日本企業はどう動くべきか。社会から何を求められるのか。
COP21に対するビジネスとの関係、意味づけを日本という枠にとらわれることなく知りたい。
他の会員との情報交換。
パリ協定の歴史的合意の背景を知る。
先進企業たちの低炭素への具体的な取組内容について知りたい。
COP21の意味や影響を知りたい。
現在の温暖化の状況を知りたい。
パリ協定の本当の意味と、日本や自社への影響。
COP21について、表側裏側の両面から詳しい情報を知りたい。
COP21の理解と他社事例。
日本の方向性。
小西さんの話を聞きたい。
企業トップ、または社員一人一人のCSRや環境マインドを向上させ、企業として具体的な行動、目標、チャレンジを明確にするためのヒントを得る。
どのような会社の、どのような方が参加していて、何を考え、行動しているのかを知る。
COP21の決定プロセス。
日本政府の立ち位置。
☆また、実際参加されて、いかがでしたでしょうか。よかった点、よくなかった点を含め、何でもご自由にコメントください☆
幅広い分野、業種、個人経営者が参加している点がおもしろい。
利益を求める中で、この現状を知った企業の方々の熱い思いを聞き、共有できて本当によかった!! 未来は変えることができる!
世界と日本の温度差がわかった。
異業種であるが故に出る意見のバリエーションがおもしろい。
海外の取り組みがいかに優れていて、日本が取り残されているのかを改めて把握できた。
初めて聞く話ばかりだったが、自らの団体にどう落とし込めるか宿題をもらった気分。
COP21での合意までの過程が大変よく分かった。参加して本当によかった。
COP21の話が詳しく聞けてよかった。
様々な業種、団体の方とワークショップで親しくなれてよかった。それぞれのセッションにおいて、目的とやることが明確だった。
COP21の意味や影響を知ると同時に、パリに至るまでの経緯が聞けたこと、各国の立ち位置や、その変化が聞けてよかった。各国団体の利害がありながらの合意形成プロセスを支える情熱が聞けて、励まされた。
COP21の舞台裏や進行が手に取るように分かった。とても印象的なセミナーだった。多くの気づきと課題を得ることができた。今年は「さらしもの作戦」を実践しようと思う。
大変勉強になった。報道、メディアで知りえなかった情報を知ることができた。
切実な問題として直面している。
非常にわかりやすく、有意義なセッションだった。他社の方々と話が共有できてよかった。
世界の動きもわかり、勉強になった。次回も期待している。
今回も新鮮な情報に接することができ、新しい発見があった。
多業種の方々と交流することができ、普段は聞けないような幅広い意見を得ることができてよかった。段取りが理解できずに参加したのは反省点。
パリ協定の意義、各国の本気度、そして日本の立ち位置を、まず伝えること。それも「わかりやすく」伝えること。
多種多様な方々と話ができて、たいへん有意義だった。もう少し時間をかけてディスカッションしたいと思う部分と、逆に午後の半日が潰れてしまうのが困る部分と両方あり、難しいところだ。
枝廣先生のファシリテートは、すばらしい!
臨場感ある、パッションある、そしてわかりやすい説明でとてもすばらしく、勉強になった。
具体的な世界と日本の現状について知ることができた。もっと難しいとおもっていたが、良い学びとなった。
ビジネスにおける意義がよくわかった。
小西さんの話は、大変素晴らしかった。「5年後の見直し」「再生可能エネルギーの方向性」についてよく理解できた。
☆今日学んだことを、どのように活用したいと考えていますか。また、さらに学びたいことなどもありましたらご記入ください☆
ビジネスチャンスからビジネスを創りだす必要性を感じた。
まずは、周りの仲間に知ってもらうことから始めたい。
国レベルでも企業レベルでも、世界と温度差があるので、乗り遅れないようにしたい。
ビジネスチャンスに活かしたい。
まだまだCOP21の細かい内容は把握できていないことに気づいた。会社のメンバーにも伝えることが、十分に吸収できたと思う。
地域の強みを活かした環境教育のビジネスモデルを作りたい。
「野心的同盟」には大きな気づきをもらった。粘り強さの大切さを、今後心して活動したい。
社内にも啓蒙していきたい。
ソウル、バンコクでのプログラムの中で、100年後を考えるときの背景として活用する。CLUB SDGsへとつなげていくつもり。
COP21の合意をいかに今後のCSRの活動、会社への啓蒙に反映できるかが、チャレンジだと思った。
自社の最大課題である「染工場」のゼロ炭素をタンとかしなければならない。
今後の企業活動につながるようにしたい。
(1)リソース、シェアリングビジネスモデル。(2)国内生産の切り替え。より省エネ工場で。(3)過剰生産。
社内マネジメントで活用していきたいこと:ハウスメーカー、住宅産業はグローバル化が遅れている。社内活性化の視点に活用したい。目標設定において、コミット設定ではなく、チャレンジ目標を設定することの大切さ。
社員一人一人、経営陣のマインドを向上させ、具体的行動、戦略立案につながるのだと感じた。
小西さんの話の中で、「パリ協定を使う」というのが非常に印象に残った。これをビジネスチャンスととらえて、頑張りたい。
新聞やニュースでは伝わらない「ポイント」がつかめた(気がする)。もう政府や経団連には騙されず、世界をみてビジネスチャンスを探しにいく。
リスクと機会の整理。
どんな風に自身にふりかかるのか、具体的に伝えて関心を持たせたい。
地域課題の見える化→グローバルにつながる可能性大。「地方」は「中央」に対する概念のイメージ。これからは「地域同志」が、つながる時代だと思う。
イニシアチブが今後増えると思うので、案作成の段階から当社が加われるよう。