開催日 | 2020年7月16日(木) |
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対象 | イーズ未来共創フォーラム 企業・団体パートナーさま、お試し参加希望のみなさま |
ゲスト | ・IGES ・戦略的定量分析センター研究員 栗山 昭久さま ・戦略的定量分析センター研究員 有野 洋輔さま |
ファシリテーター | 枝廣 淳子 |
参加人数 | 12社・団体20名 |
今、半年前までは想像しなかった世界になっています。
新型コロナが発生してから、働き方やマネジメントの仕方が変わり、ポストコロナでも働き方は変わっていくでしょう。気候非常事態宣言が、自治体や学会・研究機関等から出されています。「ネット・ゼロ」とは、どういう世界なのでしょうか?
コロナ禍で世界の国々の財政が逼迫するなか、経済復興のために新たに大きな借金をし、経済を回さなければならない状況にあります。こうした状況に対し、欧米では経済と脱炭素化への移行の両立させるグリーン・リカバリーという考え方が出きています。一方、日本ではそうした動きは見えてきません。
日本は、こうしたグローバルな動きをウオッチしながら、劣後しないようにしっかりと考え、手を打っていくにはどうしたらよいのでしょうか。考えるきっかけとなるのが、IGESが発表した「ネット・ゼロという世界:2050年日本(試案)」のレポートです。
今回このレポートを執筆されたIGESの川上さま、栗山さま、有野さまをお招きして、詳しく解説をいただきます。
報告書で示されたシナリオやさまざまなデータ、未来予想図を手がかりに、皆さんと深く考え、未来を創造する機会にできればと思っています。
1.問題意識の共有(グループディスカッション)
1.気候危機に対する自分たちの組織の認識、取り組み
2.フォーラムで何を聞きたいか、何を考えたいか、それぞれの思い
(参加者のみなさんからのシェア)一部抜粋
- サプライチェーン上のCO2削減には他社の協力なくしてはできないが、まずどのような取り組みができるのかがまだ分からない状態。その点を情報交換したい。
- 気候変動については1社でできることと、他企業等と協力しあわないと達成できないものがある。ぜひみんなでどう取り組んでいけばよいかの一歩になればと思う
- 嫌々やらなきゃいけないことではなく、進んでやるべきこととしてネット・ゼロについて話せる材料を見つけられることを期待している。
- 共有しやすいネット・ゼロ世界のイメージを見つけたい
- ネット・ゼロの社会で生まれるニーズが何か知りたい。
2.講演『ネットゼロという世界2050年日本(試案)』の背景
IGES 統括研究ディレクター/プリンシパルフェロー 川上 毅さま
1.劣後する日本:国際競争力、R&D比の低さ(5%前後)、貯蓄率の低さなど
2.体感されるようになった気候危機:2019年台風15号(局地的な長期停電)、台風19号(広範囲な洪水被害)でさまざまな問題が露呈。一方、再エネの可能性やまちづくりに取り組む必要性
+
3.新型コロナによる経済・社会・環境への影響
日本が受けたコロナ禍の特徴:比較的少ない死者、相対的に大きな経済影響か(2020年第一四半期)。時価総額比をみると、日本では製造業とサービス業では「5:4」に対して、アメリカでは「2:6」になっている(日経6.16)日米等比較
(新たな文明社会に至る歩み)
これまでの経済:リニア成長拡大志向経済「バッタ型」
↓
これからの経済:社会の変容(蝶型)=最小限の投入で、最大限のリサイクル
・グリーンリカバリー(コロナから)・カーボンプライシング・PRI、PSI、PRB、TGFD、CDP・情報公開
社会が革命的に変わる時、基礎となるのが主要な3分野。それぞれでネット・ゼロの基盤が整いつつある。
1)エネルギー:RE100
2)移動・交通:EV100、CASE
3)情報・コミュニケーション:AI、IoT、5G、DX、テレワーク
技術の進展に期待。GDPにとらわれない新たな価値観が必要。
家が燃えているのに、子どもたちが遊びに夢中になっていて逃げようとしない。これを、気候危機が起きているのに対応しようとしない世間と見立てる。そんな子どもたちに「新しい車(三車)があるから見に来て!」と言ったら、興味を示した子どもたちが家から出てきて火事から逃れることができた。
これを現代に置き換えると?実現したい社会を一緒に描いてみるのはどうか。
そのたたき台として、今回のレポート「ネット・ゼロという世界2050年日本(試案)」が使えないだろうかと考えた。
3.講演『ネットゼロという世界2050年日本(試案)』
・IGES 戦略的定量分析センター研究員 栗山 昭久さま
【本レポートの目的】
日本のCO2排出の9割がエネルギー起源のCO2排出量である。これは2050年の社会を考える上で、これは私たちの暮らしや社会に大きな変化が生じる。逆に言えば、これまでの暮らしがそのまま続いていくとは考えにくい。その上でエネルギー利用や供給のあり方を中心に、私たちの暮らしや社会の変化を考慮したネット・ゼロ社会を考え、数値化し、目指す社会に対する示唆を得ようとする試みである。
1. ネット・ゼロ社会を展望する
(レポートP22)
<ロックインシナリオ>今の社会が続いていくという前提
<トランジションシナリオ>国際的動向・国内の社会問題、技術の進展により社会変化が行き渡っているという想定
図P25
2. ネット・ゼロ社会を推計する
図P30
さまざまな変化をパラメータに振り、部門に分け、どのように進めたのかを表した図。定性的な説明の順番とほぼ同じ。
< このアプローチのメリット/デメリット >
DACS(※)
二酸化炭素を空気中から直接回収し分離し、地中に埋める技術。スイスで商業運転が始まっている。風力・太陽光だけでなく、地熱などの熱も利用するデザインも検討されている。
論点①:再生可能エネルギーだけでトランジションシナリオが必要とする電力量を供給しうる
論点②:ロックインシナリオがでは、利用しやすいCO2貯留地を短期間で使い尽くしてしまう
論点③:トランジションシナリオでは、化石燃料輸入量を2015年比93パーセント減らすことができる
3. 望ましいネット・ゼロ社会の実現に向けて
IGES 戦略的定量分析センター研究員 有野 洋輔さま
日本社会として、本当にネット・ゼロにどのような社会変革を遂げていけるのか
・ネット・ゼロはできるのか、電気価格はあがるのでは(産業界)
・再エネは高いので、まだ経済活動がまわらないのでは
といった指摘を中心として考えていく。
費用を投資と捉えた戦略の必要性
・費用が高くなった場合、国外に製造業が退出するのではという懸念
・エネルギーは追加コストになってしまう可能性もあるが、単なる費用ではなく、新たなリターンを生む投資としての判断
・サプライチェーン全体でのネット・ゼロ化の動き
・世界的な再エネ発電価格の下落。特に、太陽光、集中型太陽熱、風力の価格は、すでに化石燃料発電コストと競合するレベル
・日本の太陽光発電コストの低減
→今後起こりうる様々な社会変化の機会を取り込んでいく
・IGESの最近の関連出版物
「非効率石炭火力の段階的廃止」方針に対するコメント(修正版)
高効率な石炭火力でも原則停止、廃止するという政府から方針がでたがそれだけではネット・ゼロにはまだ足りない、という提言をさせてもらっている。
・IGESの今後の関連活動
•アジア(中国、インド、AESAN等)のネット・ゼロに関する分析 •再生可能エネルギーの利用促進に向けた電力システム分析
•自治体によるネット・ゼロ宣言の支援
4.グループディスカッション・共有・質疑応答
<各グループからのシェア(コメント)>
- グループ1:シナリオのイメージがつかめた。技術の進展が上手くいかなかったときに、どんな準備ができているのか? 社会全体でやっていかないと、達成できない。ファシリテートしてくれるところはあるのか?
- グループ2:それぞれでブレイクダウンしていくのが望ましい。自社ビルを再エネにしたいと考えている企業があるが、値段が高いからどうするかで悩んでいるケースがある。個人も企業も、意識を変えるのが大切だが、国の動きが大切だ。IGESから国に提言できるのか? 国の実情は?
- グループ3:ネット・ゼロは、実現できそうだ。実現できたときの絵ができていた。どうやって作るのかが大事。イメージできることは大切。誰がイニシアチブをとる? 日本はどうなるのか? 海外ではどうなのか? 取り組みを知りたい。
- グループ4:トランジションシナリオ、現実、成果、について分かった。太陽光のグラフが分かりやすい。取り残さないで移行したためしはあるのか? 実現可能なのか? 「黙っていると取り残す」と言ったほうがよいのでは? SDGsは、つながりが本来だ。誰がリーダーになる? その議論はあったのか? 中央と地方の関係、軋轢が出てくると思う。そのあたりの提言はあったらいいと思う。
- グループ5:ドライビングフォース、シナリオ分析、ロックインやトランジションなど、分かりやすかった。コストによって、どちらのシナリオにいくかが左右されるのでは? コストが見える形にしてくれるとシナリオが分かりやすい。2050年の社会構造、生活が、どうなっているのか知りたい。それによって、自社の立ち位置が分かる。
- グループ6:ロックインはありえない。イーズで勉強したことが、具体的に分かった。公正な移行は必要。こういうシミュレーション、シナリオ、選択、を見せる必要がある。現実に実装していくには? 具体的に進めていく段階ではどうする?
※上記の中の質問への回答はこちらでは割愛をさせていただきます。
5.枝廣からの共有
<移行について>
当然トランジションシナリオの方が良いが、このまま放っておけばロックインのシナリオになってしまうだろう。その場合に何があれば、移行できるのか。社会学者や心理学者の意見も必要になってくるかもしれない。
「必要性の理解」、「他のオプションのほうがよい」
⇒移行したい思い(ただしこれだけでは難しい)
⇒障壁を乗り越える
⇒ このうちどこが、壁になっているのか。
<参考例>下川町のエネルギーシフト、産業革命、蒸気機関(想像)
ポイント: 情報を出すこと、移行支援(移行への強制はできない)
<暮らし・ライフスタイルの変化について>
幸せ経済社会研究所が開催した、コロナ禍における「くらし・ライフスタイルの変化」についてのアンケートを紹介。一般と高関心層2つのアンケートの調査結果についての違いを説明。
★内容は下記サイトよりご覧ください。
【調査結果報告】コロナの状況下からコロナの先へ 「当たり前」を問い直す2つのアンケート
(当日のようす)
次回は9月9日(水)「コロナ禍に考える、経済と環境の両立の実現~EUタクソノミーから学び、日本企業のチャンスにつなげるには」の内容で、ゲストにはESG投資やサステナブルファイナンス関連等、政府の委員会で座長や委員を務められている、CSRデザイン環境投資顧問株式会社の代表取締役社長 堀江 隆一さまをお迎えして開催いたします。
参加された方の声から
☆本日のフォーラムに参加するにあたり、期待していたことは何でしょうか☆
・ネットゼロを具体的に理解すること
・2050年の社会の姿
・ネットゼロにするのは同様なプロセスが必要かをイメージしたかった
・環境のネットゼロの実現可能性について知りたい
・気候変動に対する取り組みを進めるための情報収集
・「ネットゼロ社会」のあり方や、そこに至るまで道筋について、自分自身の中でリアルにイメージできるようになること
・ネットゼロ社会の具体的イメージをすることで社内での気候変動対策に活かしたい
・脱炭素社会、あるいは、CO2排出量の削減(あるいはネット・ゼロ)に、当社の事業運営(本業)においてどのように貢献できるかということ。(足元の対策)
☆また、実際参加されて、いかがでしたでしょうか。よかった点、よくなかった点を含め、何でもご自由にコメントください。☆
・大きなゴールと、そこに向けての課題、新たな問いを知ることができました
・エネルギーの状況はよくわかった。一方、資料にはあった社会の姿の説明が欲しかった
・レポート作成者からお話を直接聞けてよかった
・実現可能性が知ることが出来て良かった。一方、IGES の方の話がディテイルに入りすぎていたため、エダヒロさんに引き戻して頂きたかった。エダヒロさんの見解をもっと聞きたかった
・シナリオ分析とその比較結果は、とてもわかりやすい
・「ネットゼロ社会」の実現可能性を確認できたことが最大の収穫です。報告書を精読すればよいのかもしれませんが、それだけでは、自分にとってリアリティのある未来像として感じることができるようになるまでには、かなりの時間を要したと思います。その点、直接?、お話を聞くことができましたので、報告書を読むよりも、勘所がスラスラと入ってくると思いました
・データを用いながらも非常に分かりやすい、イメージしやすい未来社会を見せていただき、理解が進んだ
・日本のCO2排出の9割がエネルギー起源であるということを知り、また、再生可能エネルギーの価格も化石燃料に近づいているということで、今後のエネルギー使用について考えるきっかけとなりました。ただし、(3)にも書きましたように、当社の事業運営(本業)においてどのようなことが貢献できるかということを考えたいと思っていました。現在はコロナ禍の状況ですが、コロナ終息後のニューノーマルにおいて、我々の社会生活がどのように変化し、脱炭素社会となるかを考えていきたい
☆今日学んだことを、どのように活用したいと考えていますか。また、さらに学びたいことなどもありましたらご記入ください。
・持続可能な社会、ビジネスへの移行のために役立てたいです
・TCFDシナリオ分析
・会社でネットゼロへ向かうステップを検討したい
・どうやっての部分がまだ見えなかったため、その辺りを深掘り出来ると良いです
・社内で使う
・CO2排出に限りませんが、環境対応などについてはとかく「理想論は分かるけど……」と言われがちです。それに対して、決して「理想論」だけではない「ネットゼロ社会」実現の可能性が見えたことで、議論を一歩、前へ進めることができるようになると思いました
・社内で関係部署に共有し今後に活かしていきたい
・日本のCO2排出の9割がエネルギー起源ということでしたが、それ以外の10%の産業とそのシナリオ等、参考になるものがあるようでしたら知りたいです。また(我々はスポーツアパレルのメーカーですが)、国連広報センターの資料によれば、
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/33203/
衣料・繊維産業は、全世界の温室効果ガスの8~10%を排出とありますが、本当にそうなのか? 当社も、石油由来でない素材の開発、燃やした時にCO2排出が少ない副資材(梱包材等含む)採用、循環型リサイクルの取り組みなどを行っていますが、それ以外の取り組み、シナリオなど、他社事例も含めて学び、考えていきたいと思っています