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第69回 弁護士・ヒューマンライツ・ナウの事務局次長 佐藤暁子さまに聞く、「ビジネスと人権」~企業、個人がワガコトとして向き合うために~(2021年12月21日(火)開催)

2021月11月26日 更新
開催終了レポート
 
開催日 2021年12月21日(火)
対象

イーズ未来共創フォーラム 企業・団体パートナーさま、お試しご参加の皆さま

ゲスト

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局次長、弁護士(ことのは総合法律事務所)
佐藤 暁子さま

ファシリテーター

枝廣 淳子

参加人数

8社10名

開催レポート

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今回の異業種勉強会では、「人権」を取り上げます。

日本の市民の間では「人権」問題はどのように捉えられてきているのでしょうか。企業の中では担当部署がしっかり対応しているはずだと、多くの従業員は関心があまりなかったり、担当部署も範囲が広くて難しいこともあり、取り組みも進めにくさを感じているという話も聞きます。 

なぜ私たちにとって「人権」は遠く、関係のないできごとになっているのか、そしてワガコトとして身近な問題として考えるにはどうすればよいのでしょうか。

今回は、企業向けに人権方針の策定支援や政策提言などを通じて、ビジネスと人権の普及・浸透に取り組んでこられ、また日本の行動計画にも関与・提言をされていらっしゃる、弁護士で認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウの事務局次長の佐藤暁子さまからお話を伺います。

「人権」は難易度が高く、複合的な課題ですが、これからの経営課題はこのようなかたちのものになっていくでしょう。こうした課題にいかに自社が迅速に対応できる体制を作るか、みなさんと議論を重ね、深めたいと思います。


 

講演『 「ビジネスと人権」~企業、個人がワガコトとして向き合うために~

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国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局次長、

弁護士(ことのは総合法律事務所)
佐藤 暁子さま

【世界の⼈権課題と企業の責任】
サプライチェーン上の⼈権侵害に対する⾮難の⾼まり

「ビジネスと人権」では、企業のサプライチェーン問題の視点で大きく取り上げられている。法律も含めて日本ではこれまでサプライチェーン上まで自社責任として取り組むようなことはあまり言われてこなかった。しかし、今はサプライチェーンの上流部分の人権問題にも企業としてどのように取り組むのかが非常に重要になってきている。

 最近も技能実習生や児童労働、サプライチェーン上での人権問題などが比較的最近メディアで取り上げられている。

 「ビジネスと人権」については、まず自社として何ができるかを念頭の一つに置いていると思うが、一消費者、一市民としての活動も当然していることを考えると、「ビジネスと人権」は事業活動のみならず私たち一人一人の生活に非常に密着していることでもあることを理解いただければと思う。

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上段(左上から):綿花農家、ラナプラザビルの倒壊事故(バングラデシュ)、
下段:パーム椰子、ラナプラザ縫製工場内のような縫製工場の現場、気候変動

右上)水産業:ヒューマンライツ・ナウの水産業の人権問題のアンケート調査報告書を発表した(報告書「日本の水産業関連会社に対するアンケート結果報告」)。日本の水産業は世界第3位の市場規模だが、船上での人権侵害に関する法整備に至っていない状況がある。こうした違法な漁業や奴隷労働に基づく水産物が入っているという指摘もある。

指導原則とは?】
国連ビジネスと人権に関する指導原則UNGP

「ビジネスと人権」を考えるにあたり参考とすべきなのが国連「ビジネスと人権に関する指導原則」である。これは2011年に国連人権理事会において全会一致で承認をされたもの。

  • 指導原則の3つの柱

1.国家の人権保護義務

「人権」の議論の発展の歴史に沿うもので国家はその自らの領域の中にいる人々の権利を保護する義務を一義的に負う(国籍を問わず)

2.企業の人権尊重責任

企業も世界⼈権宣⾔、⾃由権・社会権規約、ILO中核労働基準といった、もともと国家が名宛て人の国際⼈権基準を企業も尊重する責任を負うことを明示。

 3.人権侵害に対する救済へのアクセス

国家や企業がその「人権」を守り、実現する取り組みをしても、人権侵害は起こりうる。起こった場合の侵害に対してきちんと救済を与えるまでがセットである。

最優先に考えるべきはその人にとってどれだけ重要な「人権リスク」であるかであり、企業の「経営上リスク」はむしろ人のリスクに付随するようなもの。

【国際人権基準とは】

世界人権宣言をはじめとした世界各国が合意した様々な人権条約がある。日本もほとんどの内容で批准しているので日本政府としてもこれを実現する義務を負っている。これに対して指導原則は企業もこれを尊重するよう伝えているもの。

人権デューデリジェンス(DD)】
継続的な取組み

人権DDは経営リスクを判断するためのものではなく、人権リスクを特定して予防し、軽減し、救済する仕組みである。人権DDは1回やれば終わりではなく、継続的に行うもの。日々の業務に「人権」の視点をどのように入れていくのか、それぞれの部署によって少しずつ異なる。

人権デューデリジェンス(DD)の実施】
誰のどんな権利︖どこまで⾒る︖

自社のサプライチェーンを把握した上で、サプライチェーンの段階ごとに誰のどんな権利に影響するかを考え、サプライチェーン全体の人権侵害を少しでも無くしていく。発生した場合にはきちんと救済を行い、それによって社会全体がより持続可能なサイクルになることを目指す。

国内外の議論の進展 NAPと法制化】

指導原則自体は法律ではないが、各国が実施するにあたっての国別行動計画(NAP)を作っている。日本は2020年10月16日に提出している。

内容
・人権方針の策定
・人権DDの実施救済メカニズムの構築

指導原則に沿った内容を政府から企業への期待の表明として求めている。

  • 世界:欧米を中心に「ビジネスと人権」に関する法律が決まり、欧米では国別行動計画(NAP)を踏まえ、さらに一歩進んだ形での政策議論が行われている。
  • 日本:NAPがようやくできたところ。サステナビリティに関する関心や重要性の認識は非常に高まっている。拘束力はないものの、「人権」の観点は含まれつつある。

人権の取り組みのポイント】

① 対話・救済(苦情処理/グリーバンス)の意義
・人権リスクはどれだけ取り組んでもゼロにはならない。また、ゼロにできない。
・「人権リスクが生じる」ことを前提に

② 情報開⽰/ディスクロージャー

③ Know and Show(知ること、そして見せること)

④ ⼈権リスクと経営リスクの関連性

【⽇本のビジネスと⼈権に関する課題】

「ビジネスと人権」は非常に範囲が広い。結局、どんなところから手を付けて良いのか、と迷うところもあるだろう。日本での「ビジネスと人権」に関する課題として、法務省のレポート(今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応(概要版))を参照するとよい。ここでは日本の企業が直面しやすい課題(賃金不足や労働安全衛生差別など)が挙げられている。

今後重要なテーマ】

日本で議論が必要なテーマ:気候変動と人権、テクノロジーと人権、SDGsとの関係:SDGsウォッシュを避けるために


 

2.感想と質疑応答

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※抜粋・簡易報告書ではQのみ記載させていただきます

Q:部門横断的に対応すべき人権の先進事例(アドバイス)をお願いします

Q:日本企業では、人権の問題がありそうだと思うと引いてしまい、自分たちは関与していなかったことにしてしまうことがある。が、本来はそこに留まり続けて改善することが人権にとって大事だと思うが、その辺りはどう思われるか。

Q:「経営リスク」ではなく「人権リスク」というフレーズがいまいちストンと胸に落ちません。

Q:気候変動問題と人権は別と考えていた。この2つを関連させた取り組み、情報開示方法についてまだよく分からない状況なので、先進企業の事例を知りたい。

Q:先ほどのShell社の判決について。これまではあきらかに被害者がいた時の判決だったが、そうではない今回のような内容で判決が下されると、どの企業も自分たちも温暖化に加担をしているのでみんなが訴えられる可能性があるのでは・・・と捉えてしまう。その辺りはどう考えれば良いのか。

 


 <事務局よりお知らせ>

◇ 次回フォーラムの予定

次回は1月27日(木)にショートフォーラム第2回を開催します。年始一回目ということで、恒例の「前年の振り返りと今年の展望」をテーマに開催します。講師は枝廣が務めます。是非奮ってのご参加をお待ちしています!

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参加者の皆さんと

参加された方の声から

☆実際参加されて、いかがでしたでしょうか。よかった点、よくなかった点を含め、何でもご自由にコメントください。(抜粋)☆

・たくさんの資料を使っての説明で説得力がありました

・これからビジネスに携わる方々がこのような基本的人権の知識を持たれることに多くの期待をしています

・講師の先生がなぜ人権問題に取り組まれているのか、背景にあるものをもっと知りたい思いを持ちました

・これまで戦後世代としてそれなりに経済活動を精一杯行ってきた私の世代としては、何かそのこと総体が批判にさらされている気がして胸が痛んだ。企業の一部署の仕事として取り組む方たちにとっては方向性にヒントを与える内容だったのかもしれないが、私としてはこの勉強会でこれまでで一番心に刺さるお話の数々でした。目の前の人権に絡む課題解決を担う資格が自分にはあるのか、責める気持ちが最後まで残ったというのが率直な感想だ

・人権は複合的で難しい問題であり、最初から精緻なものを求めるのではなく、企業としてこういう課題への向き合い方を学習する、というスタンスで良いのではと感じた

・基本的な内容からわかりやすくご説明いただきました。社内浸透ワークショップで取り上げる際の非常によいヒントをいただきました

・人権について様々な視点(特に、部内でも重要な取組である気候変動問題と人権の関連)で学ぶことができてよかったです


今日学んだことを、どのように活用したいと考えていますか。また、さらに学びたいことなどもありましたらご記入ください(抜粋)☆

・今回いただいた資料を使って、これからの教員・保育者に人権問題を理解していただけるように進めていきたいと思います

・企業内のセクハラ、パワハラ問題と言われていた時代に経営者だった自分としては、これだけ広範囲に「人権」問題が課題となっている時、何から手を付けていいやら、少しの時間が必要だ

・実際に人権デューディリジェンスを進める上で、活用したい

・ESG推進室内の取り組みと人権についてどのような関連があるか、人権侵害になっていることがないか等の確認。SDGsに関する取り組み

次回のイベント・フォーラムの予定

次回は1月27日(木)にショートフォーラム第2回を開催します。年始一回目ということで、恒例の「前年の振り返りと今年の展望」をテーマに開催します。講師は枝廣が務めます。是非奮ってのご参加をお待ちしています!

 

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