ホーム > プレスリリース・講演/登壇・メディア掲載 > 【誌面掲載】『日経ESG 2020年3月号』(2020年2月8日発行)にエダヒロ...

プレスリリース・講演/登壇・メディア掲載

【誌面掲載】『日経ESG 2020年3月号』(2020年2月8日発行)にエダヒロの執筆記事が掲載されています

2020年03月09日
メディア掲載
 

『日経ESG 2020年3月号』のCover Story :新しい発想と連携で枠を越える「動き出したSDGsビジネス」に、エダヒロの執筆記事が掲載されています。

「先行する欧州 国、経営者、研究者が率先」と題し、経営の中核にSDGsを据え、経営者が自らの言葉で語る欧州企業のSDGsの取り組みを紹介し、企業に対して社会が何を要請しているかを伝える内容です。

------------

新しい発想と連携で枠を越える「動き出したSDGsビジネス」
先行する欧州 国、経営者、研究者が率先

昨年6月、国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)とドイツのベルテルスマン財団が、「世界のSDGs達成度ランキング」を発表した。日本は、162カ国中15位で、前年と同じ順位だった。1位はデンマークで、以下、スウェーデン、フィンランド、フランス、オーストリア、ドイツと続く。前年の第1位はスウェーデンだった。

常にランキング上位に位置するスウェーデンに取材に行った際、企業や自治体向けのサステナビリティ分野のコンサルティングを行っている専門家に、スウェーデンでSDGsが進んでいる理由を聞いたことがある。彼は「理由は3つある」と言う。

●皆が「自分事」で取り組む

1つめは、スウェーデン政府が本気で取り組んでいることだ。187の行政機関と約60の国営企業が自分たちのSDGsの取り組みを報告することになっている。

2つめに、企業や業界、都市が持続可能性のリーダーであり続けたいという強い思いを持っていることだ。多くの企業のCEO(最高経営責任者)が本気でSDGsについて考え、取り組んでおり、これがスウェーデンのブランドになっている。

3つめが、企業経営者、研究者、政治家などの著名な個人が、SDGsについて自分の言葉で国民に語っていることだ。持続可能性の分野で国際的に知られるスウェーデン出身の研究者ヨハン・ロックストローム氏など、科学者たちがSDGsについて語り、それをテレビや雑誌、新聞などが伝え、国民は耳を傾けている。

スウェーデンでSDGsは、企業や金融業界が持続可能性について考える際のDNAとなってきた。もちろん全員がそう考えているわけではないが、間違いなくその方向へと動きつつある。政府が企業のCEOネットワークの構築を支援し、CEOがSDGsについて勉強し、その結果として事業活動や投資戦略が変わりつつある。サーキュラーエコノミーや気候変動への取り組みも、SDGsがベースとなっている。

国連は昨年10月16日に、SDGs達成に向けた民間資金の動員を加速する目的で、グローバル企業の30人のCEOで構成する「持続可能な開発のためのグローバル投資家アライアンス(GISD)」を発足させた。このモデルとなったのもスウェーデンの投資家ネットワークだ。

こうしたスウェーデンの取り組みは、最近始まったものではない。世界が「SDGs」と言い出すずっと前の2003年に「Swedish Policy for Global Development」という法律がつくられた。この法律では、「政府の全ての政策領域は持続可能な開発に適合すること」が求められており、各政策の整合性をチェックするメカニズムも設けている。こうした土台を基に、政府の行政機関や国営企業がSDGsに取り組み、その取り組みの報告義務を負う。この「政府の率先垂範」が、スウェーデンの企業や産業界、投資家などの動きを支えているのだ。

一方、日本はどうか。総理大臣をトップとする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置し、アクションプランを発表するなどの取り組みを進めているが、各省庁や政府系機関が自分たちでSDGsに取り組み、報告するという形にはなっていない。先進事例を表彰したりモデル事例を選定して、目指すべきお手本を示すことも大事だが、スウェーデンのように、まずは政府自がSDGsを「自分事」として取り組みことが必要ではないだろうか。こうした政府の「本気度」の違いが、ランキンに表れている。

欧州では、思い切ったやり方でSDGsをビジネス戦略やリポーティングに組み込む企業が出ている。

スウェーデンの家具大手のイケアのサステナビリティの取り組みは有名だ。SDGsについても17目標を網羅したアクションプランを公表しており、数値目標も示している。スイスで行われる世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にCEOが出席して取り組みを語るなど、経営トップによる情報発信も積極的だ。

ドイツに本社を置く化学メーカーのランクセスも、SDGsの17目標の全てに取り組み、「40年に気候中立」という野心的な目標を設定している。ドイツでは、多くの企業コンサルタントが「企業におけるSDGsの実施」のためのツールを提供し、企業を支援している。ドイツのサステナビリティの専門家は、「ドイツでもSDGsの取り組みが広がっている。CEOがSDGsを理解するようになったからだ」と言う。

オランダの総合化学メーカーであるDSMは、関連会社も含めると全世界に約2万3000人の従業員を抱えるグローバル企業だ。同社にとってSDGsは、環境部門や社会貢献部門、CSR部門の取り組みではない。あらゆる部門が自分たちの事業をSDGsに位置付けることが求められ、それができないとその事業はやめさせられるという。まさに事業活動とSDGsを整合させている。

●新しい市場を取りに行く

これらの企業がSDGsに取り組む理由は何か。海外企業からよく聞く理由を紹介しよう。

最大の理由は、「新規市場の創造」である。持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)などは、「SDGsは新たなマーケットである」と公言している。その試算によれば、SDGsの課題に取り組むことによって毎年12兆ドル(約1300兆円)もの価値が生まれるという。新しい市場を取りに行くという動機が企業を後押ししている。

「競合との差別化」を考える企業も多い。中流階級の市場は30年までに30億人増え、全支出額の70%を占めるようになるという。こうした消費者に対して、SDGsがサステナビリティの考え方を強力にアピールしている。変化を先取りすることが、競合との差別化につながる。

「有能でやる気のある従業員の採用と保持」に期待する企業も多い。SDGsは、ミレニアル世代と呼ばれる若い世代が共感できる「価値観」でもある。企業のSDGsへの取り組みは、優秀でやる気のある人材を引きつけ、保持する上でも重要なのだ。

●注目すべき3つの動き

日本企業にとって大事だと思われる、SDGsを巡る世界の3つの動きを紹介しよう。

1つめは、SDGsの取り組みを実践するためのガイドラインやガイドブックが出されていることだ。国連グローバルコンパクトとグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)の「BUSINESS REPORTING ON THE SDGS」という3冊のリポートは、1冊目の「ゴールとターゲットの分析」が参考になる。これは、SDGsが「取り組み宣言」を超え、実践段階に来ていることを示している。今後は自社だけでなく、サプライチェーンを通じた取り組みが問われるだろう。

2つめは、評価のグローバル化が進んでいることだ。世界の課題解決の進捗を測る物差しとして、SDGsが使われ始めた。冒頭の「世界のSDGs達成度ランキング」を出したSDSNの「SDGsインデックス&ダッシュボード」の他、英オックスフォード大学と国際NGO(非政府組織)が立ち上げた「SDG-Tracker」も17目標の進捗を追跡している。

企業も同様に、SDGsへの取り組みによってどれだけの社会価値を創り出したのかが問われる。取り組んだ結果を測り、見える化していく必要がある。ただ、CO2削減量などの環境価値に対して、社会価値は測りにくい。企業の工夫が求められる。

3つめが情報公開だ。SDGsへの取り組みをどのように伝えるかは、どの企業にとっても難題だろう。下手をすると「SDGsのロゴを貼っているだけ」という批判に遭う。ドイツの専門家は、「特に若い世代は、企業が実際に何をやっているかを厳しく見る傾向がある」と述べる。

●退場プレーヤーは誰か

サステナビリティ経営を強力に進めたユニリーバの前CEOポール・ポールマンが、かつて、「不平等、貧困、気候変動が悪化しつつある世界で、しっかり機能する強い企業を経営することは不可能だ」と述べた時、ピンとこなかった人が多かったのではないだろうか。

まさに今後は、事業活動をSDGsと整合性のある形で行える企業しか生き残れないだろう。人類の生存や企業活動の土台を損なうプレーヤーが退場するようでなくては、ゲームは続けられない。SDGsを巡る海外動向、特にCEOが自らの言葉でSDGsを雄弁に語る様子を見ていてそのように確信している。

時代が変われば、社会が求めるものも変わる。社会の要請は何なのか。自社はそれにきちんと対応しようとしているのか。海外の投資家や消費者は、新しい社会に企業が適応できるかどうかを、SDGsの取り組みを通じて注視している。

出典:日経ESG 2020年3月号, 日経BP, p.33-35

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ