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新型コロナウィルス感染拡大を受け、 2020年2月28日から、日本全国の小学校から高校までが一斉臨時休業に入りました。学校再開の時期は地域により異なりましたが、東京では多くの学校が再開したのは6月に入ってからです。長期間にわたり、「学校で授業を受けられない」という想定していなかった状況が生じました。
こうした時、「学びを止めない手段」として役に立つのがオンライン授業です。
しかし今回の休校期間中に、オンライン授業を行った学校はごく一部にとどまりました。文部科学省の調査によると、4月16日時点で、休校期間中に「双方向型のオンライン指導をする」と回答した自治体は、わずか5%のみでした。多くの人がスマートフォンを持っているなど、情報環境は十分に整っていると多くの人は考えていたと思います。しかし、親がスマートフォンを持って仕事にでかけると、家にはオンライン授業を受けるための情報機器がない、子どもが使えるパソコンがないなど、勉強に使える情報環境の整備という点では、不十分であることが浮き彫りになりました。
この状況は世界と比べてどうなのでしょうか。2018年のOECDのPISA(生徒の学習到達度調査)から、15歳の生徒の「勉強のために使えるパソコンやインターネット環境の有無」のデータを紹介します。
図1はOECD加盟国(37カ国)について、「家に学校の勉強のために使えるコンピュータとインターネット回線がある」と回答した15歳の生徒の割合を示したものです。
この環境が最も整っているのはデンマーク。98.1%とほとんどの生徒が、勉強のためにコンピュータやインターネットを家で使える状況です。その他も多くの国で、パソコン・インターネット環境が整っていることがわかります。
それに対して、日本のこの割合は60.2%。つまりパソコンを使ってオンライン授業を家庭で受けられる環境にあるのは、10人中6人だけなのです。この割合はOECD平均の88.8%を30ポイント近く下回っており、OECD加盟国内での順位も37カ国中35位と下から3番目でした。
この状況では、オンライン授業が進まないのは当然でしょう。
さらに問題なのは、家庭環境による差です。この調査では、社会経済的に恵まれているか否かによって(※)、「勉強のためのコンピュータ・インターネット環境が整っているかどうか」にどの程度差があるのかを調べています。図2は、オンライン環境が整っている3カ国と日本とを比較したグラフです。青色のグラフはその国で最も恵まれていない社会層(下位25%)、黄色は最も恵まれている社会層(上位25%)のオンライン学習環境を示しています。
このグラフをみると、日本のもっとも社会経済的に恵まれていない層は、コンピュータやインターネットが使える割合が37.8%と、非常に低いことがわかります。これに対して、最も恵まれている層では、この割合は78.8%なので、最も恵まれていない生徒と、最も恵まれている生徒の差は40ポイントもあります。デンマークではこの差はわずか5ポイントですから、大きな差があります。
オンライン授業を受けられる環境を整えることは、新型コロナウィルス感染拡大による休校時以外にも、病気やハンディキャップのある生徒への対応など、社会的に重要です。
オンライン授業を受けられるための環境整備は、対面授業が問題なく行える平時だけを考えれば、無駄なものかもしれません。しかし、オンライン授業にいつでも切り替えられる環境を整えておくことは、いざというときの備えになります。しかもインターネットで情報を集め、学びを深めていく技術は、これからの社会を生きていくために不可欠なものです。次世代を担う人々を育てるという意味でも、家庭の情報環境整備のために社会的に投資をすること、そしてその際に不平等が広がらないように配慮することが求められます。
※PISAで社会経済的に恵まれているか否かを測定するために使用されているのが、「経済的・社会的・文化的指標です。この指標は、「両親の職種による社会経済指標」「両親の学歴指標」「家庭の物質的豊かさ指標」「家庭の教育資源指標」「家庭の伝統的な文化に関連する所有物指数」の5つの要素によって計測されています。
(新津 尚子)
この記事で使用したデータはこちら:
OECD Programme for International Student Assessment (PISA) Database 2018,
「農業が温暖化を解決するとは? リジェネラティブな農業とは?」