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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2013年08月01日

高校生vs科学者の議論「SSH 環境・エネルギー学会 in OBAMA」の報告 (2013.08.01)

エネルギー危機
新しいあり方へ
 

先週末、福井県小浜市で、スーパーサイエンスハイスクールに指定されている福井県立若狭高等学校の「SSH 環境・エネルギー学会 in OBAMA」に参加させてもらいました。

13人の高校生たちが「日本における太陽光発電の可能性」「電力需要と原発の必要性」「シェールガス利用の展望」「核燃料サイクルのあり方について」「福島原発事故を総括する」「原発と地域経済のあり方について」などのテーマで5分ずつ発表していきます。どの生徒さんもしっかり調べたうえで自分の意見を述べていて、すばらしいなあ!と思いました。

そのあと、 青海忠久氏(福井県立大学副学長)の司会で、澤田哲生氏(東京工業大学原子炉工学研究所 助教)、坂東昌子氏(愛知大学名誉教授)、小野章昌氏(三井物産OB)と私がそれぞれの立場から、生徒さんたちからの質問に答えたり、意見やコメントを述べました。

(会場の様子の写真をこちらにアップしています。
http://www.es-inc.jp/diary/2013/dir_id004204.html )

私が話す機会は2回あり、以下のように述べました。

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

高校生がしっかり考えて発表しているのを聞かせていただいて、素晴らしいなと、本当に大人も、同じようにしっかり考えて議論できるようになっていかないといけないなと思いました。

私は、経産省の資源エネルギー庁の基本問題委員会という、2030年までの日本のエネルギーをどうするかという委員会に出ていたのですが、2030年までの日本のエネルギーを考えるのに、その時代に主力になっている皆さんのような若い方が、その委員会にはゼロなんですね。40歳以下が1人もいなかった。

ですから、皆さんのような方がしっかり考えて議論していってほしいので、個々の質問に対しても答えたいことがありますが、今後、調べて考えていってほしい視点をいくつか述べます。

まず、エネルギーや電力を考えるときに、皆さんもそうでしたが、すぐ「何で賄うか」という話に行きますが、「そもそも、どれくらいのエネルギーや電力がいるの?」という需要の話を抜きにはできないのですよね。

「どれくらいの電力がいるの?」ということは、「どういう社会にしたいの?」ということです。たとえば、どんどん経済成長していくとしたら、どんどんエネルギーが必要になるから、それは自然エネルギーでも原発でも賄えなくなると、私は思っています。

なので、「幸せって何なの?」「どういう社会にしたいの?」そういうことからエネルギーの需要をまず考えて、どうしても必要なものを「何で賄うの?」というその考え方ですね、そこを抜かさないでほしいなということが1つです。

もう1つは、産業部門と家庭部門を分けて考えるということです。日本のエネルギー全部を賄おうと思ったら大変だけど、家庭部門はだいぶ自立型に近づいてきました。産業部門は安価に安定したエネルギーが大量に必要なので、大きな発電が必要かもしれないけど、家庭部門がそこから抜けていくと、だいぶ楽になってくる。家庭は少エネと再エネでエネルギー自立に向かえると思っています。

もう1つは、「パーフェクトなエネルギーはない」ということです。ですから、太陽光だけで賄うとか、何かだけ、というふうに思わないでほしい。「エネルギーミックス」という言葉がありますよね。

もう1つは、これは大人にもよくあるのですが、「白馬の騎士」幻想に気をつけること。「そのうち素晴らしい技術が開発されて、問題がすべて解決できるのではないか」というようなことをあまり考えないでほしい。メタンハイドレートがこうなったら......、核融合がこうなったら......、いいかもしれないけど、やっぱりそれだけに頼ることは難しいでしょう。

現状について、たとえば「3.11で原発が止まって混乱した」という話がありましたが、この現状をつくったのは、過去の技術と過去の政策です。これまで原発に3割も頼るような政策をしていたから、それが止まって混乱したわけです。たとえば、2000年からドイツのように自然エネルギーに力を入れていたら、違っていたかもしれないですよね?

つまり、今の政策や技術をどうするか。これから皆さんが考えていくものが未来を創る。未来を創る政策や技術をどうつくっていくか、ということを考えてほしいと思います。

~~~~~~~~

先ほど澤田先生が原発のコストの数字を見せられましたね。原発って発電量が大きいので、どんなにコストが高くても、発電量で割ると、1kW時あたりはすごく小さくなっちゃいます。なので、ああやってコストで計算して判断基準にすることがいいのかどうか。原発事故のリスクはゼロではない。「たとえ確率がゼロに近いほど少ないとしても、起こったときの影響があまりに大きいときには、それはやらない」という考え方もあります。

サイエンスと言ったときに、自然科学だけではなくて、社会科学もサイエンスなので、ぜひそのあたりの価値観や合意形成など、そういったところでもいろいろ考えてもらうといいなと思います。

そういった点で、もう1つ皆さんへのお願いです。私がよく言う「悪魔の選択肢」ーー原発(原発の事故や核廃棄物)のリスクを取るか、もしくは温暖化を取るかという、二者択一の選択肢を出すのは、そろそろやめにしたい。それを超えるようなアイディアを、ぜひ高校生から出してほしいと思います。

今の発表にあった地域経済の観点はすごく大事です。昨年この場所で、「みんなのエネルギー・環境会議」をやった時に、おおい町の事業者の方にも話を聞きましたし、昨日は柏崎に行っていて、柏崎の方ともいろいろお話をしているんですが、事業者の方がおっしゃるのは「原発が欲しいんじゃない。地域の経済と地域の雇用が欲しいんだ」と。「これまで、それを原発に頼っていたから、急になくされると困る。だけど、未来永劫、原発に頼っていくのがいいとも思っていない」という発言をよく聞きます。

そういう意味で、今の地域経済の視点、ほんとに大事で、考えを進めてほしいと思います。1つは、新しい産業の育成です。これは大変だと発表では言っていましたが、大変でもやらざるを得ない。原発がある・なしにかかわらず、常に社会・時代は変わっていくので、どんな地域でも企業でも、常に新しい事業、もしくは産業をつくっていかないと生き残れない。

何であっても、一極集中は非常にリスクが高いので、どうやって多角化していくか、です。原発が再稼動されたとしても、「良かった」と元に戻るんじゃなくて、いつまた止まるか、原発依存が減っていくかわからない。そのときに、どうやって多角化するかというのは、すごく大事だと思います。

その点で、再生可能エネルギーは、新しい産業とか雇用を創出する力になる可能性があります。たとえば、再生可能エネルギーの国内市場は2020年には1.1兆円規模になるという調査けっけがあります。あと、「その土地にある再生可能エネルギーを使う」という発表がありましたが、そうすると、お金が中東とかあちこちに行かないで、地域の中で回りますね。そういったことを考えて見て下さい。

さらに、これは松山市の例ですが、ソーラーにとても力を入れて、新産業育成をやっています。これまで88億円が入ってきて、360人の雇用をつくり出しているという報告があります。こういった形で、多角化し、新産業を創り出していく。そのときに1つの可能性として、再生可能エネルギー。そういったことを考えるのが大事だと思っています。

それからもう1つ、今あった「社会の問題解決」というお話については、まさにこういう場が本当に大事だと思うんですね。

これまで日本は、「お上」に頼ってきたので、どうも、上の人たちが決めてくれる、政府が決めてくれるという形で、私たち市民も、あまり自分たちで考えるということをしてこなかった。だけど、今、皆さんがそうされているように、「自分はどう考えるんだろう?」という作業をやっていかないといけないし、その次のステージとして大事なのは、違う意見があったときに、そこからさらにどう進むか、です。

自分の意見を自分でつくるのは、まだ簡単ですが、違う意見が出たときこそチャンスだと私は思っています。そのためには、対話や議論の作法を身につける必要がある。これは、残念ながら日本の教育で教えられていないので、私たち社会人も身につけていない人が多いのですが。

たとえば、私も「朝まで生テレビ」に出たことがありますが、あれはガチンコぶつけて、その衝突を楽しむというものです。そうではなくて、たとえば同じことに対して違う意見が出たら、丁寧に、「2人の意見の同じところはどこなのか」「違うところはどこなのか」、まずそれをゆっくり見ていく。「違うところのその違いは、どこから出てきているのか? 見ているデータが違うのか、もしくは価値観が違うのか、未来へのイメージが違うのか、その違いはどこから出てきているのかを見ていきます。

そして、その違いをつくり出しているところについて、客観的なデータとか、専門家や世の中はどんなふうに考えているかを調べる。リサーチする必要がありますね。

そういったことを踏まえた上で、「現在の自分の意見はどうか」ということをつくって、また話をします。「現在の」というのが大事で、いつでも修正可能なものにしておくこと。つまり、新しいデータとか新しい情報が来たら、意見を変えますよね? だけど、残念ながら大人の世界では、立場とかスタンスに縛られて、新しい情報などが出てきても意見を変えられない人たち、もしくは変えないようにしている人たちがたくさんいます。

高校生の皆さんは、その必要がないので、「今のところ私は、最善の意見としてこう考えている。だけど、それを変えるような情報とか意見が出たら、いつでも自分は意見を変えて、さらにいいものにしていく」というスタンスで、お互いに対話・議論してもらえたらいいなと思っています。

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

次の日、今回のはじめての試みを紹介する翌朝の地方紙の記事を先生が送って下さいました。

「ほかの高校生の意見を聞くことが出てき、環境やエネルギーについての関心が深まった。さまざまな観点から物事を見ることが大事と学んだので今後に生かしていきたい」という高校生のコメントを読んで、とてもうれしく心強く思いました。

原発立地地域だけでなく、消費地の高校生たちも一緒に、こういう議論ができるようになったらいいなあ!と心から思います。

基本問題委員会の委員だったとき、委員会の年齢構成の偏りにびっくりし、少しでも若者の声を届けたいと「エネ若の集い」を開催して、高校生、大学生、20代の働く若者の議論をエネ庁の担当者にも聞いてもらい、レポートを委員会にも届けました。

当日集まって意見を言うだけでなく、今回の高校生たちがそうしたように、事前に自分でテーマを選び、調べ、まとめ、発表し、そのうえでディスカションや対話を行う「エネ若・学会編」ができたらいいな!と思います。賛同してスポンサーになってくれる企業・団体、ないでしょうか?

 

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