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「増加する非正規雇用者--初職時の非正規雇用者も増える(データを読む35)」では、日本の労働者のうち10人に4人が非正規雇用者であることを取り上げました(平成24年の就業構造基本調査より)。
https://www.es-inc.jp/graphs/2017/grh_id009086.html
それでは、正規雇用者と非正規雇用者の間にはどれくらいの賃金差があるのでしょうか。
図1と図2は、厚生労働省の賃金構造基本調査の結果から、平成28年6月分の賃金について、「正社員・正職員」と「正社員・正職員以外」との間でどれくらい差があったのかを、男女別に示したものです。
※厚生労働省の賃金構造基本調査では、「正社員・正職員」と「正社員・正職員以外」という区分を用いていますので、同調査の結果を紹介している部分については、この表現を用います。
図1と図2を比べてまず気がつくのは、特に男性で「正社員・正職員」と「正社員・正職員以外」との間の賃金差が大きいことではないでしょうか? 賃金差が一番大きい50~54歳の男性の場合、両者の間には一ヶ月間に約19万円もの賃金差があります。それに対して、女性では両者の賃金差は約5万円です。
図1を見ると、男性の正社員・正職員の場合、50?54歳までは年齢が上がるとともに、賃金も上がっていることがわかります。それに対して、正社員・正職員以外は、年齢が上がっても賃金はほとんど上がっていません。これが男性の正社員・正職員と正社員・正職員以外との間に大きな賃金差が存在する理由です(なお、図2からは女性の正社員・正職員の場合、年齢が上がっても、賃金があまり伸びていないことがわかります)。
男性の場合、若いうちの賃金差はそれほど大きくありませんが、高校や大学など、子どもの教育費に一番お金がかかる年代で大きな不平等が存在することがわかります。このことは、親の経済状況が、子どもの将来の経済水準に多大な影響を及ぼすことを示唆します。つまり、親の貧困が子どもの貧困につながる「貧困の連鎖」が起こりやすく、そのために子どもを持つことを諦める人たちが出やすいのです。このように、非正規雇用者の賃金が低いことは、貧困問題や少子化問題とも密接に関係するのです。
また図3は図1(男性)と図2(女性)のグラフを合わせたものです。図3を見ると、日本では男性の正社員・正職員の賃金が高く、また昇給率が大きいことがわかります。一番賃金が高い「男性の正社員・正職員」と、一番賃金が低い「女性の正社員・正職員以外」の50から54歳での賃金差は、約25万円もあります。また、50から54歳の「男性の正社員・正職員」と「女性の正社員・正職員」の賃金差も約15万円あり、日本では正社員・正職員と正社員・正職員以外の賃金の差だけでなく、男女間の賃金差も大きいことがよくわかります。
もちろん、非正規雇用者といっても、フリーランスとして自分の生き方を追求している人たちから、主婦のパートや、フルタイムで働いても貧困から抜け出せないワーキングプア(働く貧困層)と呼ばれる人たちまでさまざまです。ただし、総務省統計局のデータによると、非正規の職についた理由として「正規の職員・従業員の仕事がないから」と、望んでいないのに非正規の職についている人が2割ほどいます。
非正規雇用者が安定した生活を送れるようにすることは、「貧困の連鎖」を断ち切り、次の世代の生活上の問題を小さくすることに貢献します。私たちは、現代の不平等の問題が、日本の未来の問題にもつながっていることを忘れてはなりません。
(新津 尚子)
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増加する非正規雇用者--初職時の非正規雇用者も増える(2017年7月8日)
https://www.es-inc.jp/graphs/2017/grh_id009086.html
エダヒロの本棚 > 反貧困―「すべり台社会」からの脱出
http://www.es-inc.jp/books/2009/bks_id002917.html
参考・引用資料
厚生労働省, 平成28年賃金構造基本統計調査
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2016/yougo.html
総務省統計局, 「最近の正規・非正規雇用の特徴」
http://www.stat.go.jp/info/today/097.htm
「農業が温暖化を解決するとは? リジェネラティブな農業とは?」