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経済成長を永遠に続けていくことは可能ではないし、幸せなことでもないと思っている人は少なくないと思います。ただ、経済成長をベースとした現在の経済や社会の構造をどう変えていけばよいかがわからないため、踏み出せない--そういう問題意識を持つ私にとって、とても注目すべき委員会が設置されました。経済財政諮問会議の下に設置された『選択する未来』委員会です。
「定常型経済」という考え方があります。
幸せ経済社会研究所のウェブサイトの「キーワード解説」からご紹介しましょう。
http://ishes.org/keywords/2013/kwd_id000929.html
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~
定常型経済とは「経済成長を目標としない経済」、つまり「活発な経済活動が繰
り広げられているものの、その規模自体は拡大していかない経済」のことです。
ゼロ成長経済という言葉で表現されることもあります。
「ゼロ成長」といっても、経済活動を止めてしまうわけではありません。自転車
が同じスピードで走り続けていれば倒れないように、定常型経済では加速するこ
となく、経済活動を持続させることを目指しています。
こうした経済が求められる理由は、大きく2つあると言われています。
ひとつ目は環境問題との関係です。資源や自然環境には限りがあるため、経済活
動がこのままのペースで加速を続けると自然環境が悪化してしまうことが社会問
題になっています。
ふたつ目は人口の減少です。日本はすでに人口減少時代を迎えていますが、人口
が減れば労働者も減るため、GDPで測定できるような経済成長を続けることは
難しくなります。こうした状況の中で、成長戦略に替わるものとして、定常型経
済を求める声が高まりつつあります。
□参考:『定常型社会―新しい「豊かさ」の構想』(広井良典/岩波新書)
http://www.amazon.co.jp/dp/4004307333/ref=as_li_tf_til?tag=junkoedahiro-22
□参考:「定常型経済」へ向かって(「ガスエネルギー新聞」2013年2月4日掲載)
http://www.es-inc.jp/library/writing/2013/libwri_id003693.html
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~
温暖化をはじめとする環境制約(人間活動を支えるのに、地球1個分では足りな
くなってしまっているということ)の顕在化を見ても、「GDPは増えても幸せに
はなっていない社会」の現状を見ても、日本の人口の推移を見ても
(このグラフ、ぜひご覧下さい。ジェットコースターのようです......
http://www.es-inc.jp/graphs/2012/grh_id003273.html )
いかに早いタイミングでスムーズな定常型経済へのソフトランディングをしてい
くかが非常に大事だと思っています。
そういう問題意識を持つ私にとって、とても注目すべき委員会が設置されました。
経済財政諮問会議の下に設置された『選択する未来』委員会です。1月30日に初
会合が開催されています。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/index.html
委員名簿はこちらにあります。基本問題委員会でも委員長を務められていた新日
鉄の三村さんが会長です。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/memberkouhyo.pdf
その設置について、このように書かれています。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0130/shiryou_01.pdf
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~
「選択する未来」委員会の設置について
平成 26 年 1 月 20 日
経 済 財 政 諮 問 会 議
1 趣旨 ~ アベノミクスを中長期的な発展につなげるために
今後半世紀、世界経済や人口など日本を取り巻く環境には大きな変化が予想され
る。こうした中、世界経済に占める日本経済の規模が縮小していくという見方もあ
る。しかしながら、こうした姿を政策努力や人々の意志によって大きく変える、す
なわち「未来を選択する」ことは可能である。
アベノミクスによって生じた景気回復の動きを確実なものとしつつ、わが国の中
長期発展につなげていくため、今後半世紀先までの構造変化を見据えつつ、東京オ
リンピック・パラリンピックが開催される 2020 年頃までに重点的かつ分野横断的
に取り組むべき課題を抽出し、その課題克服に向け包括的に取組を進めていくこと
が重要である。
このため、経済財政諮問会議の下に、専門調査会として「選択する未来」委員会
を設置する。「選択する未来」委員会では、経済財政諮問会議で取り組む戦略的課
題について、その裏付けとなる中長期・マクロ的観点からの分析、考え方を提示し
ていく。また、今後の長期的な変化を見通した議論を深め、様々な分野横断的な問
題を発掘し、その対応の方向性を明らかにしていく。その中で、本年の骨太方針に
反映すべきものは盛り込んでいく。
2 主要検討課題
● 今後の構造変化を見据えた日本経済の発展メカニズムの構築
● 健康長寿を実現し、男女ともに生涯にわたって能力を発揮できる環境づくり
● 人と活動の集積の効果の発揮と個性を活かした地域づくり
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~
前半を読むと、(環境制約などもちろん意識していないし)「人口が減っても、
日本経済の規模は維持・拡大できるはず、そのための手法を考えるための委員会」
という、これまでと変わらないイケイケドンドンの音が聞こえてきますが、
資料6 「選択する未来」に向けて にはこのような記述があります。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0130/shiryou_06.pdf
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~
2.人口減少と出生率
現在の傾向が続けば、2060年には人口が約8,700万人まで減少。
2030年に、合計特殊出生率が2.1程度に回復する場合においても、2090年代まで
人口減少は続く。
少子化対策が急務。当面は、人口減少が続くことから、人口減少に対応した経済社会づ
くりが必要。
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~
ここを読んで、「なるほどー、緩和策と適応策ね」と思いました。
温暖化で、CO2など温暖化を進めている要因を減らすという根本的な対策を「緩
和策」と言います。ただ、CO2排出が今日ゼロになったとしても、これまでに出
してきた温室効果ガスの効果で、数十年は温暖化が進行してしまいますから、
「どうしても進行してしまう温暖化に対する備え」も必要です。これを「適応策」
と呼びます。
日本はこれまで、少子化対策に力を入れてきました(あまり成果は上がっていま
せんが......)。人口減少という問題に対して、人口を増やすという、根本的な対
策であり、温暖化でいうところの「緩和策」ですね。
しかし、温暖化と同じく、出生率が回復したとしても、当面は人口減少が続くの
で、それへの備え(適応策)が必要だ、ということです。
ちなみに、温暖化でも人口減少でも、「すぐに強力な緩和策が打てたとしても、
それでも適応策が必要になる」のは、システム思考でいう「時間的遅れ」のせい
です。
CO2排出をゼロにしても、大気中にすでに出されたCO2の消失には時間がかかりま
す。出生率が改善して赤ちゃんが増えても、その赤ちゃんたちが育って、子ども
を産む年齢になるまでには、時間がかかりますよね。
この委員会で、「労働力が減っても、日本経済の規模を維持・拡大するにはどう
したらよいか」だけではなく、「人口減少社会にふさわしい経済や社会のしくみ
をどう作っていくか(社会保障や過疎化への対応など)」もしっかり議論しても
らえることを強く期待しています。
定常型経済という考え方はほぼまったくないのだろうと思いますが、「適応策」
としてでも、人口が減少した日本社会の望ましいあり方を考え、実行し、みんな
がその効果を実感できれば、「経済規模の拡大を続けなくてもいいかも」という、
"乗り換える舟"ができてくるのではないかと思うのです。
「選択する未来」委員会という、ネーミングに込められた思いはいろいろでしょ
うけど、「人口が減っても(減るからこそ)、幸せで持続可能な社会」という未
来を選択することはできると思っています。