国連持続可能な開発目標(SDGs)の17目標のうち、2つは「平等」に関わるものとなっています。
目標5:ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
目標10:国内および国家間の不平等を是正する
これは、「不平等」の問題が大きいこと、その是正や解決が持続可能な社会にとって不可欠であることを示しています。
今回はこの「不平等」に関する日本の状況についての情報発信を2つ、続けてお届けします。グラフ等は、URLからウェブをご覧ください!
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2018年02月10日
正規雇用者と非正規雇用者との間に存在する「賃金の不平等」:貧困問題とも密接に関連
「増加する非正規雇用者--初職時の非正規雇用者も増える(データを読む35)」では、日本の労働者のうち10人に4人が非正規雇用者であることを取り上げました(平成24年の就業構造基本調査より)。https://www.es-inc.jp/graphs/2017/grh_id009086.html
それでは、正規雇用者と非正規雇用者の間にはどれくらいの賃金差があるのでしょうか。
図1と図2は、厚生労働省の賃金構造基本調査の結果から、平成28年6月分の賃金について、「正社員・正職員」と「正社員・正職員以外」との間でどれくらい差があったのかを、男女別に示したものです。
※厚生労働省の賃金構造基本調査では、「正社員・正職員」と「正社員・正職員以外」という区分を用いていますので、同調査の結果を紹介している部分については、この表現を用います。
図1と図2を比べてまず気がつくのは、特に男性で「正社員・正職員」と「正社員・正職員以外」との間の賃金差が大きいことではないでしょうか? 賃金差が一番大きい50?54歳の男性の場合、両者の間には一ヶ月間に約19万円もの賃金差があります。それに対して、女性では両者の賃金差は約5万円です。
図1を見ると、男性の正社員・正職員の場合、50~54歳までは年齢が上がるとともに、賃金も上がっていることがわかります。それに対して、正社員・正職員以外は、年齢が上がっても賃金はほとんど上がっていません。これが男性の正社員・正職員と正社員・正職員以外との間に大きな賃金差が存在する理由です。
(なお、図2からは女性の正社員・正職員の場合、年齢が上がっても、賃金があまり伸びていないことがわかります)
男性の場合、若いうちの賃金差はそれほど大きくありませんが、高校や大学など、子どもの教育費に一番お金がかかる年代で大きな不平等が存在することがわかります。このことは、親の経済状況が、子どもの将来の経済水準に多大な影響を及ぼすことを示唆します。
つまり、親の貧困が子どもの貧困につながる「貧困の連鎖」が起こりやすく、そのために子どもを持つことを諦める人たちが出やすいのです。このように、非正規雇用者の賃金が低いことは、貧困問題や少子化問題とも密接に関係するのです。
また図3は図1(男性)と図2(女性)のグラフを合わせたものです。図3を見ると、日本では男性の正社員・正職員の賃金が高く、また昇給率が大きいことがわかります。一番賃金が高い「男性の正社員・正職員」と、一番賃金が低い「女性の正社員・正職員以外」の50から54歳での賃金差は、約25万円もあります。
また、50から54歳の「男性の正社員・正職員」と「女性の正社員・正職員」の賃金差も約15万円あり、日本では正社員・正職員と正社員・正職員以外の賃金の差だけでなく、男女間の賃金差も大きいことがよくわかります。
もちろん、非正規雇用者といっても、フリーランスとして自分の生き方を追求している人たちから、主婦のパートや、フルタイムで働いても貧困から抜け出せないワーキングプア(働く貧困層)と呼ばれる人たちまでさまざまです。
ただし、総務省統計局のデータによると、非正規の職についた理由として「正規の職員・従業員の仕事がないから」と、望んでいないのに非正規の職についている人が2割ほどいます。
非正規雇用者が安定した生活を送れるようにすることは、「貧困の連鎖」を断ち切り、次の世代の生活上の問題を小さくすることに貢献します。私たちは、現代の不平等の問題が、日本の未来の問題にもつながっていることを忘れてはなりません。
(新津 尚子)
○こちらもどうぞ
2015年度の日本の貧困率:改善傾向にあるが高い水準が続く(2017年8月30日)
増加する非正規雇用者--初職時の非正規雇用者も増える(2017年7月8日)
エダヒロの本棚 >反貧困―「すべり台社会」からの脱出
○参考・引用資料厚生労働省, 平成28年賃金構造基本統計調査
総務省統計局, 「最近の正規・非正規雇用の特徴」
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●幸せ研ニュース●
格差縮小コミットメント指数:「不平等を低減するための政府の取り組み」についての新指数
(オックスファムより)
開発金融インターナショナル(Development Finance International : DFI)とオックスファムは2017年7月、世界152カ国の「政府の不平等縮小への関与」を順位付けした指数を発表しました。初となる「格差縮小コミットメント」(Commitment to Reducing Inequality : CRI) 指数のベータ版です。
CRI指数では、経済的不平等を縮小する政策のうち「教育・保険・社会保障への社会支出」「税制」「労働政策」の3領域について、政府の取り組みを測定しています。
結果は、1位がスウェーデン、2位がベルギー、3位がデンマークと、OECD諸国が上位を占めています。ただし報告書によると、豊かな国にも、さらに累進課税を進めるといった改善の余地があるとのことです。
CRI指数と伝統的な不平等指標との相違点をよく表す結果となったのはナミビアです。ナミビアは最も経済的不平等が大きな国の一つであるにもかかわらず、CRI指数は152カ国中40位と、アフリカ諸国でも上位に入りました。
これはCRI指数が、不平等そのものではなく、ナミビア政府の不平等解消への関与――特に高いレベルの社会支出(中等教育の無償化)と、もっとも累進的な税制――を反映しているためです。
なお、日本は152カ国中11位。内訳をみると、「教育・保険・社会保障への社会的支出」は7位、「税制」は43位、「労働政策」は4位と、税制の順位が低いことがわかります。
(新津 尚子)
「格差縮小コミットメント指数」について詳しくはこちら(英語)
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こうして2つの記事を並べて読むと、日本は「正規・非正規労働者の間の不平等」が大きく、かつ、「男性・女性労働者の間の不平等」も大きい。特に「税制」を通じて、その不平等を是正していく余地が他国に比べても大きい、ということがわかりますね。
消費税の増税その他、税制に関わる議論の際には、「それを何に投下して、何を改善していくつもりなのか」もしっかり見ていきたいと思います。